【AJCC回顧】底力勝負でダービー馬ダノンデサイルの強さが際立つ 中4週での参戦、その意図とは

勝木淳

202年AJCC、レース結果,ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

ダノンデサイル参戦の理由

ダービー馬の翌年AJCC参戦は1999年スペシャルウィーク以来であり、勝利も同じ。同馬はジャパンCからの参戦であり、有馬記念からAJCCと歩んだダノンデサイルはトレンドに抗う続戦でもあった。

陣営は有馬記念3着の内容を受け、急遽、AJCC参戦を決断。その証拠に主戦の横山典弘騎手はすでにマテンロウレオという先約があり、戸崎圭太騎手に手替わりした。その意図はなんだったのか。久しぶりに考えさせる競馬を提供してくれたことに感謝したい。今回のダノンデサイルの走りにその答えを見つけた気がする。

その前にレースの流れを抑えておこう。アウスヴァールの先手は予定通り。オールカマーでは同舞台で序盤600m36.6、1000m通過1.01.0と抑制の効いた逃げを打ち、2着に粘った。

今回は序盤600m36.5、1000m通過1.00.6とここまでは決して速くなかった。同馬はスローの離し逃げに持ち込み、後ろを離すことでリラックスできるが、今回は2番手のチャックネイトに予想以上に深追いされ、残り1200mから11.9-11.7とギアを上げざるを得なかった。

さらにチャックネイトは残り800mから上昇し、早めに先頭を奪いにきた。ここから11.3-11.8と4コーナー手前でかなりピッチが上がり、残り400mは12.2-12.6と失速。中盤からペースを上げ続ける変則的な形が底力勝負を呼んだ。

こんな状況下で先に動いたマテンロウレオ、コスモキュランダの脚色は芳しくなく、レースの厳しさを物語っていたが、勝ったダノンデサイルだけは明らかに次元が違った。それは前がバテ、後ろも思うように伸びきれない状況で、上がり最速タイの末脚を使う底力はさすがダービー馬。これがおそらく陣営が目指す真の姿だろう。

かねてより陣営は課題の話が多く、想像するに完成はまだ先だと考えている節がある。ダノンデサイルのなかに眠っている素質を目覚めさせるにはどうするか。その答えが経験だったのではないか。調教で強化するのも手段だが、厳しい状況下に身を置く実戦で得られる、引き出させる部分も大きいはず。

実際、最後の直線での弾けっぷりはダノンデサイルのイメージを変えた。おそらく脱皮の瞬間だったのではないか。あえてAJCC出走に踏み切ったのは、実戦による能力覚醒が目的で、最後の脚力はそうみえた。あれほど厳しい状況は実戦でなければ経験できない。

冬が旬のマテンロウレオ

中盤からペースアップし、さらにチャックネイトの動きによって拍車が掛かっただけに、上位に来た馬はタフな競馬になった。2着マテンロウレオは好位につけ、前の動きにつられず、後ろの仕掛けにも応じず、あくまで自分のタイミングで動いたのが好走の要因だろう。

横山典弘騎手らしいタイミングの読みが2着を呼び込んだ。逃げ差し自在のタイプながら、成績が安定しないところもある。しかし、4~9月【0-0-0-7】で春から夏の太陽が高い季節が得意ではない。10~3月【3-3-1-7】で日が低い季節で狙える。冬馬タイプで今が旬。暑くなる前に狙いたい。

3着コスモキュランダは後方からもっとも早く仕掛け、超強気な捲りでレースを厳しい形に持ち込んだ。これがこの馬の本来の姿。先に先に動き、周囲に辛い流れをつくることで、自分の得意なゾーンに持ち込む。レースレベルを引き上げるという意味では欠かせない存在だ。

その分、ダノンデサイルの力を引き出すなどアシストに回ってしまう状況はなんとも歯がゆい。弥生賞ディープインパクト記念以来、勝ち星から遠ざかっており、そろそろ勝利がほしい。精神的にムラな面があり、序盤はゆっくり進まざるを得ないかもしれないが、できればもう少し初手で位置をとり、早めの仕掛けも楽にこなしたいところ。

荒っぽいレースは魅力だが、どうしても目標になってしまうため、勝ちきれない。菊花賞は上手くいかなかったが、長距離をこなせれば面白そうだ。

4着ボルドグフーシュは周囲に先に動かれてしまい、思うような仕掛けができなかった。それでも厳しい流れを最後は伸びており、菊花賞、有馬記念2着の実力は示した。理想は有馬記念でみせた捲りだが、動けるときに強気に動けば、もう少し成績は上向くだろう。捲りが通用する小回りがいい。

2番人気レーベンスティールは12着。オールカマーを勝っているが、冒頭で触れたようにアウスヴァールが演出したスローに助けられた面は大きい。今回のような持久力を問う流れだと2200mは長い。1800、2000mで見直せる。

2025年AJCC、レース回顧,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。

《関連記事》
【シルクロードS】ビッグシーザー、ウインカーネリアンに割引データ ピューロマジックは京都なら一変
「単回188%」藤岡佑介騎手×小倉がアツい 小回り芝コースで狙える種牡馬と騎手を調査
【シルクロードS】過去10年のレースデータ

おすすめ記事