【シルクロードS回顧】前傾ラップで輝くエイシンフェンサーの競馬センス 父ファインニードルと同じ道からGⅠ獲りへ

勝木淳

2025年シルクロードステークス、レース結果,ⒸSPAIA

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ハンデの妙

トップハンデはウインカーネリアンの59キロで最軽量はスリーアイランドの52キロ。近走、重賞で好走していたのは京阪杯2着のウインカーネリアンぐらい。残る出走馬は3勝クラスからの昇級ないしオープン勝ち負け程度がほとんどという近況では、実績上位馬に重いハンデを課さざるを得ない。

想定段階でトップハンデ59.5キロだったビッグシーザーは、京阪杯でウインカーネリアンに先着しており納得だが、陣営はハンデを理由に回避して高松宮記念へ向かうことに。こうしてシルクロードSは登録段階からゲートが開くまで、様々な変遷があった。

56.5キロを背負うピューロマジックと人気をわけあったソンシが返し馬終了後に競走除外に、さらにゲートではセントメモリーズが突進し、やり直し。外枠発走となってしまった。無事にゴールを駆け抜けるのは決して簡単ではないと改めて知る。

実績差を絶妙にハンデが埋めたレースでもあった。前走でオープン初勝利をあげ、重賞初出走だったエイシンフェンサーが55キロで勝ち、3着はトップハンデのウインカーネリアン。2頭の着差は2馬身で、ハンデ差は4キロだが、エイシンフェンサーは牝馬なので、実質2キロ差だった。

一般的に斤量1キロで1馬身差といわれるが、着差はまさにその通り。ハンデキャッパーの見事な読みに驚かされる。なぜ、エイシンフェンサーとの実力差を2キロと読んだのか知りたい。

重賞2勝2着2回のウインカーネリアンとオープン勝ち負け、ないし昇級馬との実力差という難しい問題はハンデキャッパー以上に馬券を買う側にとって難問だった。さらに頼りにしたソンシが除外となっては、どうしようもない。今後はハンデキャッパーの確かな読みを頼ってもいい。

一方で、2着グランテストはエイシンフェンサーと同じ5歳牝馬で同馬より2キロ軽い53キロ。過去には52キロでCBC賞3着があり、53キロは0.1差4着だった昨秋のオパールSを引き継ぐ形だった。

オパールSは勝ったビッグシーザーが次走重賞勝ち、2着メイショウソラフネと3着ペアポルックスはその後オープンVとハイレベルであり、シルクロードSへの斤量スライドは恵まれたともいえる。こちらはハンデの盲点。こうやってハンデを読むのもおもしろい。


父ファインニードルと同じ5歳で覚醒

行く一手ピューロマジックは速い。鞍上が促すことなく、自然流で気がつけば先頭。こうなれば競りかけるライバルはいない。3コーナーまで距離が短く、緩い上りにかかる京都芝1200mでは前半が速くなりにくい。この構造を利用し、普段よりペースを落とす競馬も考えられたが、ピューロマジックにはその意志はなし。まだ精神的に夢中になってしまう面が残っているようだ。

単騎でいって前半600m33.1はオーバーペース。後半、下りに転じるコースでは末脚に賭ける組も脚を残し、加速しやすい。後半は11.1-11.8-12.2、35.1。落差2秒差の前傾ラップは京都では珍しい。

勝ったエイシンフェンサーは直前に中山で前後半600m33.2-34.2となったカーバンクルSを前から押し切った。前傾ラップへの対応力が一枚上だ。速い流れに適応するスピードと最後にひと脚使えるギアチェンジもできる。一級スプリンターが内包する力をここにきて身につけた。

また、ピューロマジックだけが飛ばす流れのなか、少し引いた位置を追走するなどセンスも魅力だ。レースの形がいかようでも、自分の競馬を表現できるのも心強い。混戦向きであり、これが重賞初制覇となった川又賢治騎手にとって、次は一気にGⅠを手にするチャンスだ。

一方、高松宮記念の舞台である中京芝1200mは本来の京都芝1200mと似た後傾ラップになりやすい形態であり、ピューロマジックのような快速型の参戦が欠かせない。前傾ラップを勝った以上、ベストは活気ある流れになること。次走でGⅠまで手に入れるには、展開利も必要だろう。

父ファインニードルも5歳時に覚醒し、同じ道をたどってGⅠを手にしたが、シルクロードSは前後半600m34.0-34.3、高松宮記念では同33.3-35.2となるハイペースを6番手から差し切った。似た流れであれば、戴冠できる。レーススタイルも父に似てきた。


控える競馬で新味をみせたグランテスト

2着グランテストはCBC賞で逃げて3着という成績を残しており、ハンデの盲点であると同時に人気の盲点でもあった。ピューロマジックという快足牝馬の存在から、逃げられないという判断になったわけだが、それが結果的に5~6番手から差すという新味をみせた。

だが、外目で負荷なく追走できたことや、行きたがる素振りもみせていたことから、これで差す形がOKとはいえないのも確か。今回、控えて好走したことで次走、どんな入りにするのか読みにくくなった。目標にされるより、控える競馬の利点は大きいものの、まだ控えて好走するには条件がつくだろう。

3着ウインカーネリアンは京阪杯好走によって59キロを課せられたことが敗因だった。京阪杯がスプリント戦に変わってから、シルクロードS(2007~24年)で前走京阪杯1、2着は【3-0-0-7】。勝ったのはロードカナロア、ダノンスマッシュ、ルガルの3頭。GⅠ級ばかりだ。

別定からハンデ戦への臨戦で前走好走となれば、当然、ハンデは重くなる。とはいえ、前記3頭は57、56.5、57.5キロ。みんな京阪杯が重賞初制覇だったため、58キロは越えず。実績が乗る形になったウインカーネリアンはしんどかった。それでも3着だから、評価は下げられない。

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ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。

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